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無意識に声を張り上げていた元音は鏡を見ずとも自分が大きく目を見開いている事を認知するほどに驚愕していた。すると元音の大きな疑問に雲園はこんな声を返してくる。
「久土和先輩の性格を知ったからこその作戦変更です。告白してから好きになってもらえればいいとそう思ったんです」
久土和は告白なしで自分を好いてくれていると思うような男の子ではない。
彼の心の中までは分からないが、好きだと言葉にして初めて久土和はこちらの気持ちを受け入れてくれている気がする。だからこそ雲園の言っている事はよく理解できていた。しかしそれはとても困る。
だが、困るとは言っても雲園の行動を止める権利など元音にはない。
邪魔をしたい気持ちは山々だが、それでも告白をさせないよう誘導するという手段は、久土和の事を考えると気が引けていた。尾行をしておいて何ではあるが、好きな人に後ろめたい事は極力したくないのである。
「久土和先輩に休日で遊ぶ約束するんで、その時に告白しようと思ってます。詮索しないでくださいね」
「…………」
どうやら久土和と二人きりのデートを約束し、そこで思いを伝える算段のようだ。雲園はもう気持ちが固まっている様子で元音にそんな事を律儀に教えてくる。元音は雲園の顔を見返しながらも口を開く。
「尾行はしないよ。告白の邪魔もしない……でも、告白したならどうなったかは教えて欲しい」
久土和と雲園のデートだけでも嫌だというのに、落ち着きのない気持ちは告白が加わると更に落ち着かなくなる事だろう。元音は雲園にそう言うと、彼女は一瞬の間を置いて口を開き始める。
「いいですけど、先輩にとっては辛い結果になるかもしれませんよ」
雲園は強気にもそんな挑発めいた言葉を口にしてくる。だが元音もそんな台詞に踊らされてはいられなかった。
「どんな結果でも聞きたいから平気。お願いね」
そう伝えると、雲園は分かりましたと頷いてからじゃあ戻りましょうと話題を変えてくる。
そろそろ戻らないと久土和に心配をかけてしまう。元音も彼女の意見に賛同しながら二人で元いた席へと戻っていくのであった。
第二十七話『特別』終
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