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「諦めたくないですけど」
「うん?」
「諦めたくなんかないし、私も振られたら鉄平先輩みたいになるんだなって思ってましたけど……っ」
すると雲園は拳を握りしめながら声を絞り出す。彼女の目からは一滴の涙がこぼれ始めていた。元音は予想外の反応に驚き慌て始める。
気の強そうな雲園が泣く光景はあまりにも想定外だったのである。慌ててポケットに入れていたハンカチを取り出し渡すと、雲園はそれを受け取りながら涙を拭き始めた。
「駄目って言われたんです……私っ、久土和先輩を好きでいるのは駄目って言われたんですっ…………」
「……え」
雲園は嗚咽を混ぜながらそう言葉を発する。元音は何が何だか分からなくなっていた。久土和がそう言ったのか? あの、なんでも許してくれる久土和が?
「鉄平先輩のように何度も告白の言葉を自分に向けるのはやめてくれって、はっきり言われたんです……っ」
それは元音には想像もしたことのない内容だった。久土和なら元音でなくても告白の言葉に寛容的に笑いながらいつもありがとな! と言ってくれると信じて疑わずにいた。だが雲園の涙がそれは違ったのだと告げていた。久土和は彼女の言った通り、雲園の好意を拒んだのだろう。
「もういいですよね? 私、教室戻りますので」
雲園は流れ出てくる涙を自身の手で拭いながらそう言って背中を見せてくる。元音は驚きが何よりも先にうわ回っており、彼女の言葉に反応ができなかった。
そんな元音を横に雲園は気の強い発言を残しながらも肩を落として裏庭の扉をくぐり、そのまま彼女らしくもない重い足取りで元音の前を去るのであった。朝礼の始まりを告げる聞き慣れた予鈴の音が鳴っても、元音はそのまま足を動かせずにいた。
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