第二十八話『ライバルからの報告と…』

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久土和(くどわ)くんが好きでいるのも駄目って……)  一時間目の授業をサボってしまった元音(もとね)は、そのまま裏庭の椅子に座り思考していた。  元音の告白にいつも嫌な顔せずお礼を口にする彼の顔を思い浮かべる。  それだけで気持ちが安らぎ、本題を忘れてしまいそうになる程久土和の破壊力は凄まじい。しかしと、元音は頭に思い浮かんだ久土和の素敵スマイルを一旦頭の隅に移動させる。  久土和が人の好意を否定するなど、考えたことがなかった。  正直、お付き合いが無理でも好きでいる事を許してくれることは至極当然のことだと、今日この時までそう思っていたのだ。  何も好きでい続けていい事が特別だとは一度も思わなかった。  久土和勝旺(かつお)という男の子はそういう性格の王子様なのだと、ずっと無意識にそう思い続けてきたのだ。  だから雲園(くもぞの)が振られても元音のように告白済みの片思い続行要員がもう一人増えるものなのだと、そう考えていた。  久土和が元音の好意を否定しないように、雲園の好意を否定することは全く想定していなかったのである。 (嬉しい……)  久土和にどのような意図があるのかは分からないが、元音の好意だけは拒まなかった事実を素直に喜ぶ。雲園への同情心はない。これは一人の王子様を奪い合うサバイバルなのだ。敵に同情する心ははなから元音にはない感情である。  しかしふと気になる事があった。雲園は久土和とデートをした事に間違いはない。  告白をして、振られたとは言っていたが、雲園は中々にライバルとして強力な相手であった。  もしかしたら、土曜日の間久土和にスキンシップを図っていたという事実はないだろうか……。 (えっ久土和くん襲われたりしてたらどうしよっ!!?)  例えばキスだ。振られてから不意打ちのキスをして最後の思い出にするという、元音の妄想でライバルが行ってきた恐ろしい展開である。そんな事実があったらどうしよう。これは確認をせずにはいられなかった。  心臓が一気に不穏な高鳴りを見せる。  元音は一時間目の授業が終わる予鈴を耳にするやいなや、急いで雲園の教室に足を運ぶのであった。
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