第一話『王子様』

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第一話『王子様』

「いってきまーす」  アパートの玄関を出ると、鉄平(てつひら)元音(もとね)はこ気味よく響く階段の音を奏でながら地上へと足を下ろす。そうしていつものように歩を進め学校へと向かった。  早朝の駅は人が多く賑やかだ。元音はホームドアから少し離れたところでスマホを弄り電車が来るのを待つ。 (王子様…現れないかな)  いつもの願望を元音は今日も頭に浮かべていた。女性に乙女ゲームとして大人気のソーシャルゲームをしながら心の中で願う。この十六年間、一度も元音は異性に恋心を抱いた事がない。  その理由は決して異性に対しての興味がないという理由からではなかった。そう、元音は単に理想が高すぎるのだ。  金髪に整った綺麗な顔立ち。そして誰にでも優しく勉強も運動も完璧にこなす。まさに理想の王子様だ。  一般的に考えて元音に望みが薄い事はよく分かっている。そして予想通り自身の理想像がなかなか目の前に現れない為、元音はいまだに恋をした事がなかった。  だが元音は恋をしたくて仕方がなかった。友人から聞く恋バナを聞いて羨ましいと思った回数は数回という短いものではなく、その話を聞く度に必ず思う程だ。  自分も彼女らのように理想の相手を見つけて、早く夢中になれる素敵な恋をしたい。  しかしそれを妥協という形で解決するのは嫌だった。元音は本当に好きだと思った人間としかお付き合いをしたいと思えない。
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