第三話『口実とやり取り』

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第三話『口実とやり取り』

久土和(くどわ)くん、さっきはありがとう! よろしくね』  帰りの電車の中で元音(もとね)は早速久土和にレインを送っていた。  内容に悩みはしたものの、思い立ったら即行動が元音の理念だ。  久土和の既読がつくまでどのくらいなのだろうかと考えながら文章の後に続けて送ったレインのスタンプを眺める。『よろ!』と書かれた、陽気な印象を持たせるその犬のスタンプを見つめながらも元音は口元が緩んでいた。  久土和の連絡先を入手できた事はとてつもなく大きい。  彼と繋がりを持てたことで一歩前進したのだ。明日直接報告をしようと友人二人の顔を思い浮かべ元音が電車に揺られていると、電車の中で距離感の近いカップルが目に入った。 (いいなあ)  幸せそうな顔で寄り添い合う高校生くらいのカップルは互いに頬を赤らめながら手をしっかりと握り、甘い雰囲気を醸し出している。自分もいつか久土和とそのようになれる日がくるのだろうか。 (久土和くんは彼女いないし可能性はあるよね…)  久土和が自分の事を恋愛対象として見ていないところは一目瞭然だろう。  友好的ではあるものの久土和からは一人の女として見られている感覚が一切なかった。  久土和は分かりやすい性格をしている為脈があるかどうかは明白だと思う。その為現時点では一方通行な恋である。  だが今日、久土和は元音の事を確かに『平ちゃん』と愛称で呼んでくれたのだ。その事実を再び思い出し、元音の心臓は一気に跳ね上がる。 (平ちゃん……平ちゃん…………やばっ嬉しすぎる)  口元がにやけてしまって仕方がない。元音は余韻に浸りながら最寄りの駅を通り過ぎた事に気が付き、慌てて停車駅で折り返すのであった。
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