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元々強い人が好きだった。
久土和の事は夏休み、偶然知った。
雲園が母方の祖父母の家に訪れた場所のすぐ近くで、見慣れた顔を見かけたのだ。その相手は雲園のクラスメイトで柔道部の面々でもあり、雲園は柔道部の合宿先がそこであることをその時初めて知った。
雲園に気付いたクラスメイト数人とその場で会話をし、時間があるなら見学でもという誘いから雲園は彼らの誘いに乗ることにしていた。
祖父母の家に訪れても特に何かをする予定はなく、のんびり過ごすだけのプランだったため、雲園は柔道部の顧問である教師に挨拶をし、見学させてもらうことにしたのだ。
その瞬間までは単に暇だったからという見学理由だったがその時、周りが見えなくなるほどかっこよくて強い姿を見せてくれた久土和に惚れたのである。雲園にとって顔立ちの有無はどうでも良く、ただ強いかどうかが重要なところだった。
そして自分好みの相手にぴったりな久土和は、好きになってから毎日雲園の気持ちを高める存在になっていた。
強くて男らしい体つきの逞しい姿はタイプどころではなく、最高に雲園の理想に合っていた。だから二学期に入ったらマネージャーになって、彼に近付こうとそう強く決心していたのだ。
『振られても俺の事を好きでいてくれるのは平ちゃんだけがいい』
久土和の言葉は、固い意志を持っていた雲園の恋心を容易に諦めさせる強い力を持っていた。
「こよよ〜思い詰めた顔して、どうした?」
「うん、後で聞いて……昼休み、話聞いて」
本日二回目の涙が溢れ出てくる。自分がこんなに泣いてしまう人間だなんて今日この時まで知らなかった。
今まで失恋を経験したことのなかった雲園はそこで初めて、恋が叶わない事の辛さを身を持って実感したのだ。
* * *
第二十八話『ライバルからの報告と…』終
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