第二十九話『ライバルの退場』

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第二十九話『ライバルの退場』

「あんた、学校いたくせに遅刻とかおかしすぎんでしょ」  そう言って元音(もとね)の頭にチョップを繰り出してきた美苗(しえ)は心底呆れた様子でこちらを見下ろしていた。  事情を話し終えた二時間目の休み時間、元音は美苗と可菜良(かなら)に囲まれながら今朝の出来事を報告していたのだ。美苗の呆れチョップに元音はしかし満足そうに声を返す。 「でも今日遅刻して大正解だよっ確認したい事確認できたし」  雲園(くもぞの)久土和(くどわ)の貞操を確認できたのはとても大きかった。  久土和と雲園のデートは二秒だけ手を繋いだという事実と、告白をして振られたという二つの事実があるが、それ以外はないのだ。  雲園という強力なライバルも久土和を諦めると言っているし、もう元音に立ちはだかる敵はいない。  眉根を寄せながらこちらを見下ろしてくる美苗とは対照的に元音はニコニコとした様子で彼女にそんな話をしていると、急に「(ひら)ちゃん」という声が耳に響いた。一秒の間も空けず元音は瞬間的に振り返る。 「久土和くんっおはよっ!」 「平ちゃん遅刻なんてどうしたんだ? 具合悪いのか?」  それを聞いて元音は一気に動悸が激しくなりだす。久土和は元音が遅刻したから体調を崩していると勘違いしているらしい。  心配してくれて声を掛けてくれたのかと嬉しさで舞い上がりそうになるが、元音はそれを必死で抑え「具合悪くないよっ」と声を返した。 「ちょっと色々あって遅刻しちゃっただけなんだっ! 心配してくれてありがとうっ」  元音がそう言葉を返すと、久土和は安心した様子に変わり「そうか、なら安心だなっ!」とこちらに笑みを見せてくれる。堪らなく幸せだ。
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