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雲園との一件から一日が経過した。
文化祭まであと二週間というところで元音は柔道部の見学へ足を運ぶ。
雲園というライバルはもういないという安心感が元音の心中を穏やかにしていた。
そして今日はなんと、久土和と一緒に部活まで足を運べるというラッキーイベントが起きている。こんな幸せな放課後が迎えられることに元音は感謝していた。
「文化祭ももう少しで楽しみだねっ」
「だよなー! テスト前に文化祭ってのが最高にいいよな!」
笑いながら元音にそう同意してくれる久土和にとてつもない愛情を浮かべながら元音は彼の言葉に激しく同意し返す。
「文化祭の準備で部活動休む人って結構いるの? 出し物しない部活はその辺自由なんだよね?」
久土和が所属している柔道部は特に文化祭の出し物がないようで、彼は定期的にクラスの文化祭の準備に力を貸してくれているのを元音は知っている。
というか、知っているも何も彼が文化祭準備で教室に居残る時はいつも元音がしっかりと隣をキープしているので、まあ知らない筈がなかった。久土和は元音の問いかけに楽しそうな笑みを向けたまま口を開く。
「おう、うちは結構いるな! 知っての通り俺も休んでるし、出し物ないから先公に怒られる事はねえからな! みんな好きなように部活出たり休んだりって感じだ」
「そうなんだね、久土和くんが文化祭の準備手伝ってくれるのすっごく助かってるし嬉しいよ! えへへ、いつもありがとう」
「はははっそりゃお互い様ってやつだ!」
そんな和気藹々としたまるで友達以上恋人未満のような会話を繰り広げていると、不意に横を一人の生徒が追い越してきた。早歩きで追い越してきた生徒は見覚えのある人物だった。いや、見覚えのあるどころではない。元ライバルの雲園だ。
「お疲れ様です。久土和先輩、部活でまた後ほど」
「おう、雲園お疲れ! また後でな」
久土和がそう言葉を返すと、雲園はぺこりとお辞儀をして更に早足で階段を降りていく。
元音は二人のやり取りに声を出せなかった。これは一体全体どういうことだ?
(雲園さん……)
「辞めたんじゃないのっ!!?」
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