第二十九話『ライバルの退場』

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 雲園(くもぞの)元音(もとね)の粘着的な視線に耐えかねたのか、深いため息をつきながらこちらに視線だけを向ける。  対する元音は面白くない顔を彼女に向けたまま雲園の言葉に疑問の言葉を投げかけていた。そうすると、雲園はもう一度ため息をつきながらゆっくりと口を開いたのだ。 「私、強い人が好きなんです。柔道部のマネやってれば、他校とかでも強い人といっぱい出会えるだろうし、そう言うのも狙ってます。今後は久土和(くどわ)先輩以外の人を見ていくつもりなんです。前向きに生きたいので。そういう計画立ててるんで、邪魔しないでください」  雲園の言葉を聞いて元音はなんだかそれをすんなり受け入れる事ができていた。センサーに敏感な元音でも、久土和の事を諦める雲園の意思はもう感じ取れたのだし、彼女の言い分は苦しいものには思えなかった。 「へえ、見つかるといいね王子様。応援してる」  元音は本心からそんな言葉を発していた。  雲園の事は別に好きでもなんでもないが、彼女が久土和以外のいい人を見つけると言うのなら応援しよう。そんな気持ちで言葉を向けていた。しかし雲園は心底嫌そうに元音を見返してくる。 「はあ!? 応援とかいらないです。ほんとやめて下さい。ていうか王子様ってなんですか」 「王子様は王子様だよ。久土和くんの事、王子様だと思ってるんだ」 「え、きもちわる……」 「王子様がずっと理想だったから、久土和くんを王子様って思えるようになってわたしすごく人生が楽しいんだよね」  元音の話に興味を全く示さない雲園にそんな告白をすると、雲園は非難の目をこちらに見せながら「やっぱあたおかですよ先輩」と心外な言葉を向けてくる。まあ、別にいいのだが。
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