第二十九話『ライバルの退場』

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久土和(くどわ)くん以外にどう思われてもいいし、まあ雲園(くもぞの)さんも頑張ってね」  そう言って雲園から離れる。  雲園から聞きたい事はもうない。彼女の意思には納得したし、もう本当にライバルになることはないのだろう。  久土和と同じ部活動という点だけ気になるものの、プライドの高そうな雲園が久土和を追いかける事はもうないのだろうと、なんだか不安症な元音(もとね)でもそう思えてしまっていたのである。  そうして元音が雲園からそれなりの距離を取ったところで、最後に背後から小さく声が降りかかってきた。雲園だ。 「先輩より絶対幸せになります」  元音は足を止めて声を返す事も振り返る事もしなかった。別にそんな事はどうでも良かったからだ。雲園がこの先どのように生きようと、久土和に関与しないのならもうどうでもいい。  だから雲園が今後、イケメンの彼氏を見つけても何とも思わないし、イケメンではない彼氏を見つけても何とも思わない。幸せであろうがなかろうが、どちらでもいいのだ。冷たいように感じるかもしれないが、これが元音の性分だ。 (久土和くんの柔道姿、楽しみだなあ)  そうして元音は頭の中を完全に切り替えると、もはや見慣れたと言ってもいい久土和の部活動姿を楽しみに気持ちを高揚させるのであった。
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