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第三十話『善人の助言』
雲園との一件から早数週間が経ち、大きなイベントである文化祭が終わった。
久土和と少しでも一緒に出し物を見て回りたかった元音は、あらかじめ彼に一緒に回りたいという旨を伝えており、久土和はそれに快く了承してくれていた。
そうして文化祭の一日目に二人で一時間ほど一緒に屋台を回って食べ歩きを楽しんだ。
途中途中で久土和の友人が彼に声を掛け、完全な二人きりという状況は叶わなかったが、それでも久土和が一緒に回ってくれようとした姿勢がとても嬉しく、文化祭の思い出はこれまでで一番楽しいものになっていた。
そうして楽しい祭りが終わり、校内全体が中間試験に向けた空気になっていくところでしかし元音はワクワクした思いが終始心の中に宿っていた。
(今日も部活の見学いこーっと!)
文化祭という学生にとっての青春と呼べる大きな祭りが終わり、皆虚無感に苛まれている中、元音には楽しみが毎日のようにある。久土和と一緒にいられることが楽しみなことこの上ないのだ。楽しくないはずがない。
「こんにちはっ斉藤先輩」
いつものように久土和に事前報告をし、放課後になると慣れた足で柔道部の部活動へ顔をのぞかせる。斉藤は元音の姿を見て優しく微笑むと「文化祭お疲れ〜」と労いの言葉をかけてくれていた。
「みんな文化祭終わっちゃって魂抜けてたけど、鉄平さんは楽しそうだね。いいことあった?」
「えへへ、確かに文化祭終わったのは寂しいですけど、久土和くんに会えるのでっ毎日楽しいです」
「あはは、そっか、そういうことね」
元音の曝け出した久土和への好意に斉藤は苦笑いしながらもしかし楽しそうである。
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