第三十話『善人の助言』

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「誤解にならないように先に言うね、あたしは久土和(くどわ)君を好きとかそういうのじゃないよ。むしろ鉄平(てつひら)さんの恋は本当にすごく応援してるんだ。順を追って説明するね」  その言葉を聞いて心から安堵する。  もし、斉藤(さいとう)が新たなライバルになったら良好な関係を続けていく事が出来なくなるだろうと自分で分かっているからだ。  元音(もとね)は斉藤の言葉で安心し切ると、そのまま彼女の言葉を静かに聞く事にした。  斉藤はいつものような優しい言葉遣いで先程の言葉の意図を説明し始める。 「あたしがまだ一年生の時にね、好きな人がいたんだ」  すると斉藤は自身の過去の話をし始めた。  高校一年生の時、同じクラスの男子に恋をしていた斉藤はその異性を好きになってから半年くらいが経つと、その男子に告白をしたようだ。  しかしその場で振られてしまい、まだ好きでいさせてくれと斉藤は口にしたらしい。余程その男子の事が好きだったのだろう。  そして斉藤のまだ好きでいたいという思いはその男子に受け入れられたようで、振られた後も彼を好きでいられる権利を得る事ができていたようだ。  斉藤は告白して以降、彼へのアピールを続けていたと言う。  好きでいてもいいと容認された事が嬉しく、もしかしたらまだチャンスはあるかもしれないとそう思って彼に声を掛けたり、隙を見つけては接点を作っていたみたいだ。  毎日のように彼との接触を図っていた斉藤は、いつかは自分を見てくれるのかもしれないとそう思っていたのだと遠い目をしながら元音に話してくれた。 「でもちょっと行きすぎかなって思ってね、迷惑はかけたくないから二人きりの時に思い切って聞いてみたんだよね、好意が迷惑じゃないかって」
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