第三十一話『久土和の思い』

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第三十一話『久土和の思い』

久土和(くどわ)くん、今日は約束ある? 終礼が終わったら相談したい事があって」  何事もなく柔道部の活動が終了し、部員たちが次々と体育館を出ていく中、元音(もとね)は汗だくの久土和に声を掛けていた。  ()も滴るいい男……という感想を持ち得ながらもそれは心の底に追いやり、久土和に改まった様子で向き合う。  しかし久土和の反応はいつも通りですぐにこちらに笑みを向けると、二つ返事で「勿論聞くぜ! 今日は約束もねえから心配すんな!」と答えてくれたのである。この返しだけでもう元音はご褒美をもらっているような気分になる。  そして久土和の終礼が終わるまで裏庭で待機する事にしていた。この学校の最終下校時間は七時までなので、まだ五十分ほど時間の余裕がある。  数分が経つと、裏庭の扉が開かれ、待ち人の王子様が入ってくる。  久土和は待たせてわりいなと片手を上げてそう口にすると、元音の目を見返しながらもう一度口を開いた。 「それで平ちゃん改まってどうしたんだ?」  十月になると六時というこの時間帯はもうすっかり暗くなり、そんな暗い裏庭で元音は久土和と対面をする。  元音は部活の後なのにありがとうっとお礼を告げてから早速本題を切り出した。先程斉藤に言われた事を単刀直入に久土和に問い掛ける。 「久土和くん、わたし、これからも久土和くんに好きって毎日言いたいんだけどね、今も変わらずそれは迷惑じゃないかな?」
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