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目の前に立つ女の子は、いつもとは違ったやけに真剣な表情でこちらを見上げている。
窓から漏れた灯りでしかはっきりと見えない暗闇の中の裏庭で、鉄平が一人口を開き始めた。
この先、自分が鉄平の好意に負担を感じるかもしれないから今後の久土和への接触は控えるべきか否か、鉄平はそう問いかけてきた。
しかし鉄平の言葉を聞いて直ぐ、久土和にはもう答えが出ていた。深く考えなくてもその場で思ったのだ。
「やめないでくれ」
途端、えっと驚いたような声を鉄平は出す。
鉄平から好意を伝えられないことは久土和にとっての寂しさに該当する。
鉄平の好きが迷惑ではないのではない。むしろ鉄平の好きが、久土和にとっての喜びなのだ。久土和はずっと、鉄平に好意を伝えられる度に思っていた。
(平ちゃんに言われる『好き』が好きだ)
鉄平から告白をされて、とても嬉しかった事を思い出す。
今でも覚えているあの光景は、多数の生徒がいたにも関わらずそれに屈せず勇気を出して告白してくれたあの光景は、久土和にとって衝撃的な出来事だった。
鉄平から告白されるまで人から告白をされた事はなかった。
元恋人である捺実には自分から告白をしていた為、自分にとって誰かから好かれると言う出来事はとても珍しい事であった。この約半年間、他人の好意はこんなにも嬉しいものなのだと、鉄平からの好意を受け取る度にそう感じていた。
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