第三十一話『久土和の思い』

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 だが部活の後輩である雲園(くもぞの)に告白をされた時、鉄平(てつひら)以外の好意を受け入れたいとは思わなかった。  それは、雲園が駄目という理由ではなく、鉄平だけに好かれたいという至極単純な理由だったのだろう。  彼女が自分にとって特別な存在である事には以前から気が付いていたが、特別の深い意味までは自覚できていなかった。  しかし久土和(くどわ)はようやく今、明確にそれを自覚できていた。好きのアピールを、鉄平に止めないでほしい理由はもう明らかだ。そうだ、自分は―――― 「平ちゃん、好きだ」 「えっ」 「俺への『好き』は、止めないでくれ。毎日聞けるのがすげえ嬉しいからさ」  久土和はそう言うと、一定の距離が空いていた鉄平へ一歩距離を詰める。鉄平はこちらを赤らんだ顔で見上げながら、静かに久土和の言葉を待っていた。上目遣いの視線が、花のように堪らなく可愛らしい。 「鉄平元音(もとね)ちゃん」 「俺と付き合ってくれないか」 「へっ……へっっ!!!?」  久土和は彼女の手元へそっと手を差し出す。  鉄平は顔をリンゴのように真っ赤にさせた後、こちらを凝視しながら可愛らしい表情でひどく動揺していた。 * * *
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