最終話『王子と姫』

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『勿論いいぜ! まあ照れ臭えのは同じだけどよ、元音(もとね)ちゃんなら大歓迎だ』  勝旺(かつお)はそう言って快く了承してくれたのだ。  そして、本当に照れ臭そうに顔を仄かに赤くさせながら、しかし楽しそうに口を開いてこちらの手が伸びてくるのを待っていた勝旺の様子はとっても、それはもうとてつもないほどに愛おしかった。あの瞬間を、一人で独占できた事がこの上なく幸福である。  それからも水族館の中を堪能し、記念に二人で写真を撮ったり、お土産コーナーでお揃いのマスコットを買ったりと本当に恋人らしいことをたくさんしていた。  勝旺と付き合う前のゲームセンターデートもそれは本当に楽しい一日であったが、あの時とはやはり、勝旺の距離感が違っていた。勝旺は、恋人になったらこのような感覚になるのだと、嬉しい発見が出来ていたのだ。  勝旺の方から手を繋いでくれる事。  度々可愛いな! と褒めてくれる事。  そして『元音ちゃん』と、優しく名前を呼んでくれる事だ――。 (それとそれとそれと、毎日好きって言ってくれるの、ほんとすきっ大好きっっっきゃあああ〜〜〜〜〜〜〜!!!)  勝旺と付き合い始めてから元音の心の中はいつだってパラダイスだ。これが夢でないという現実に幸せしか感じていない。  勝旺との一日デートの最後の瞬間もとても忘れることのできない別れ際だった。  家の前まで送ってくれた勝旺は、家に着く少し前のところで元音の頭を優しく撫で、こんな言葉を口にしたのだ。 『今日の元音ちゃん、マジで可愛いな。今日はありがとな! すげえ楽しかった』  そう言ってポーッと露骨に顔を赤らめ、うっとりした目で見上げていた元音の額にチュッと一瞬だけのキスを落としてきたのだ。こんなに素晴らしいサプライズはないだろう。 『口はまた今度な! 元音ちゃんの父ちゃん母ちゃんが見てるかもしんねえからな!』 (配慮の勝旺くんっ……好きっっっ!!!!!)  正直に言うと、両親に見られる恥ずかしさを選んででも遥かに勝旺にキスをされる展開は、元音が心から望むものであったが、勝旺の配慮の気持ちに惚れ惚れしてしまった元音はそのまま勝旺に飛びついて、それで彼を摂取することで満足する道を選んでいた。  勝旺も元音の抱擁に拒む様子は見せず、こちらを大きな両手で包み込むと、甘い時間がしばし二人を囲んでいた。  帰宅すると両親からは詳しい話を問い詰められ、元音も話し出すと楽しくて仕方なかった為、勝旺の素晴らしいところについて終始語り尽くしていた。  そんな一日の締めがとても幸せで、元音はその日寝たくとも眠りにつくことができなかった。
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