最終話『王子と姫』

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 そうして約二時間ほどの勉強会をしていると、勝旺(かつお)がたまたま廊下を通った教師に呼び出され一時的に教室から離脱してしまった。  勝旺がいない空間は寂しいが、彼が帰ってくるまで岩根(いわね)に勉強を教え、役目を全うしよう。そう思っていた時だ。 「久土和(くどわ)もう少しかかるってよ」  岩根のスマホが鳴り、すぐに通知を確認していた彼は勝旺からの連絡だと教えてくる。  元音(もとね)は「そうなんだっ」と声を返しながら勝旺が少しでも早く戻ってきてくれることを願い始めた。  別に岩根と二人でいる事に不満があるわけではない。ただ単純に勝旺の顔が早く見たかった。  そんなことを思っていると、対面していた岩尾は衝撃的な内容を繰り出してきたのだ。 「ついでに『元音ちゃんをよろしくな!』だってよ」 「えっ見せてっっっ!!!!!!!!!」  ガタッと勢いよく立ち上がった元音に心底驚いたのか、岩根はギョッとした様子で目を見開き「ビクッたー」と声を漏らす。そうして興奮気味の元音に「ほい」と言いながらスマホを渡してくれた。 『ちょいかかるから元音ちゃんをよろしくな!』  そんな一文を目にした元音は勝旺がいない寂しさを一気に忘れ、幸せに浸っていた。  少し離脱した勝旺が、元音を気にしてこのような文言を岩根に送ってくれたのだろうか。  彼女である自分を気にかけてくれた勝旺の心情がたまらなく愛おしい。元音ではなく岩根にだけこうして送っている状況も、彼がこっそり裏から元音を支えてくれているのを実感でき、嬉しかった。
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