最終話『王子と姫』

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 勝旺(かつお)に誘導された場所はショッピングモールに比べ、人通りの少ない公園だった。  特別広くも狭くもない公園にはフラワーゲートで囲まれた綺麗な花園があり、勝旺はそこへ元音(もとね)を連れ出した。  金木犀の匂いが所々から漂い、勝旺に連れ出された事で感じていた心地よい感覚を更に刺激される。勝旺にがっしりと握られた手には温もりが終始伝わり、すぐ隣に彼がいる事実に幸福感を抱く。 (お花、一緒にみようと思ってくれたのかな)  そんな勝手な妄想を抱いていると、勝旺がある場所でぴたりと足を止めた。当然ながら元音も足を止める。 「綺麗なお花たくさん咲いてるねっ」  満面の笑みで彼にそう言葉を向けた元音を見返した勝旺は、優しくこちらを見下ろしてくれていた。  そうして「だよな!」と賛同の声を出してくれると、元音の下ろした髪を優しく梳きながら「元音ちゃん、ちょいとだけ目、閉じてくれるか?」と口にしたのだ。  二つの意味でドキンと胸が高鳴った元音は、勝旺が触れてきた手の温かさと、何かをされる高揚感で何も考える事が出来なくなる。 「うんっ! 今閉じるねっ」  そう言ってすぐに彼の要望通り目を閉じた元音は、そのまま何をされるのだろうとドキドキした思いで彼の言葉を待った。  なんだろう、サプライズなのだろうが、勝旺は一体どのようなサプライズをしてくれるのだろう。  正直、彼が常にそばにいてくれるだけで本当に幸せなのだが、勝旺が元音の為を思って何かをしてくれる事もそれはもう嬉しくて仕方がない。  心臓は落ち着かない様子で鼓動の音が一向に正常値に収まりそうにない。しかし、目を開けてはいけないと自分に言い聞かせながら元音はひたすら彼の合図を待つ。
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