最終話『王子と姫』

15/16
前へ
/251ページ
次へ
 すると、少しの間を置いてから衣服の擦れる音が耳に響く。瞬間、頭の上に何かが乗っかった。  だが元音(もとね)は頭の上に乗ったものの正体に察しが付かずにいた。勝旺(かつお)からの合図はまだ来ない。  もう少し待つ必要があると判断した元音はそのままドキドキした思いで彼の行動を静かに待つ。どうしようか、最高に楽しい。 「元音ちゃん、目開けても大丈夫だ」 「うんっ」  彼の合図と同時に元音は閉じていた目をパチリと開いた。  そして何が乗っているのかずっと分からなかった頭に手を乗せようとした時、さっとどこから持ってきたのか小さな手鏡を勝旺に向けられる。  これは頭に乗せたものの正体を見せようと勝旺が配慮して用意してくれたのだろう。なんと気の利く王子様なのだろうか。 「えっティアラ……!!?」  そして鏡に映った自分の頭にはそれは本当に可愛らしい綺麗なティアラが乗せられていた。  太陽に反射して美しく輝く銀色のティアラは、中央に素敵な石が嵌め込まれており、一際目立つ形で輝きを放っている。 「おう、ティアラだ! すげえ似合ってるしやっぱり元音ちゃんが付けると可愛いな!」  そう口にすると勝旺はもう一歩こちらに歩み寄り、元音の髪をもう一度触りながら言葉を続けた。 「前によ、元音ちゃんが俺を王子だと思ってるって言ってたろ? 少しでもそれを再現できたらと思ってな、ちと考えたんだ」 「!!!!!」  本当に予想外の言葉だった。  付き合う前に一方的に向けていた元音の理想を、勝旺はずっと覚えて、それを実現してくれようと行動してくれたのだ。それを考えると涙が出そうなほど嬉しい思いが込み上げてくる。 「可愛いドレスは用意してやれねえし、俺も見た目が王子って感じにはなれねえけど、形だけでもやっておきたくてな」  そう言葉を発した勝旺は今度は片膝をつき、元音を見上げる体勢を取り始める。何がなんだか分からない元音は勝旺を終始見つめ続け、彼がジャケットのポケットから取り出す小さな箱に、更に目が見開いていた。 (え……それ…………)  ドクンと心臓が跳ね上がる。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加