第三話『口実とやり取り』

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 休み時間になると元音(もとね)久土和(くどわ)に話し掛けようと席を立つ。緊張は勿論あったが、早く彼と会話をしたくて仕方がなかった。  元音は自分のそんな積極性に感謝しながら彼の座る席へと足を運ぶ。久土和は友人らと楽しく談笑していたが、話し掛ける口実は既に用意していた。一言二言話せればそれでいい。少しずつの進展が大事なのだ。 「久土和くん、絆創膏あげる」  彼に近付きそう言って元音が手渡したのは、束になった未使用の絆創膏だ。  久土和は昨夜レインで絆創膏が手放せないと話しており、元音は自宅にたくさんそれを常備しているのを思い出していた。何か彼の印象に残れればと自身の持っている絆創膏を全て引っ張り出してきたのである。 「お? いいのか? サンキュー!! 助かるな!」 「なんで鉄平(てつひら)が絆創膏あげてんだよ?」  するとその様子を見ていた久土和の友人らがこちらに目を向けながら心底不思議そうな顔をして問い掛けてくる。  予想してはいた事だが、最優先で久土和に話し掛けたかったのでこういった問いかけの答えを元音は全く考えていなかった。  彼らの疑問にどう返そうかと考えていると久土和がその質問にこんな言葉を返していた。 「昨日レインで平ちゃんと絆創膏の話になってな!! だからくれたんだよ、ホントありがとな!!!」 (うわああああ好き!!!!!!! 百点満点回答!!!!!)
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