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「これ俺が作ったんだ。歪な形の指輪だけどよ、貰ってくれるか?」
小さなエンジ色の箱が開くと、そこには真ん中に小さなルビーが嵌め込まれた手作りの指輪が姿を現した。キラリと輝いたルビーの石は本物だ。
「元音ちゃん、赤い色が好きって言ってたろ? だからルビーっつう石を選んで嵌めてみたら結構綺麗でな!」
以前、勝旺に赤い色が好きだと告げた事がある。
勝旺にプレゼントされるものならなんでも嬉しいが、自分が好きだと告げた色を選んでくれる勝旺の心遣いに元音は感激してしまう。
「勝旺くんっ大好きっ、ありがとうっ!!! ティアラも指輪も一生大事にするねっ」
感極まった元音は勝旺に涙を見せながらそう告げる。そう、涙が自然と出ていた。
感動して泣く事など、今まで一度もなかった。そんな元音が今初めて勝旺の行動で涙を流している。
「元音ちゃん、これ嵌めてもいいか?」
勝旺は元音の言葉には返事をせず、そんな言葉を口にしながら元音の手をそっと持ち上げる。
膝を付いた勝旺はまるで本当に物語に登場する王子様のようにこちらを真剣な目で見上げ、問いかけてくる。
元音は深く頷きながら「お願いします……っ」と声を絞り出した。泣いているせいであまり可愛い声は出せなかった。だけどそれでも勝旺は嬉しそうに笑い、元音の右手の薬指にその世界で一番素敵な指輪を嵌め込んでくれる。
「俺も大好きだ、お姫様」
「……っ」
指輪をはめた勝旺はそのままゆっくりと立ち上がり、元音の唇を奪う。
最高の言葉と共に唇に幸せなキスが落とされた元音は、本当に物語のお姫様になったような気分で彼からの接吻を受け入れていた。
元音の頬を伝う涙を拭いながら唇を重ねてくる勝旺の、その優しい動作を決して忘れない愛しの王子様に、特級の喜びと幸せが心を充実させる。
そうして二人以外誰もいないフラワーガーデンで、甘い口付けを交わし続けた。
王子と姫を当てはめて――――元音は勝旺とのキスを続けながら何度も理想として夢みた最高の王子様とお姫様を、自分らに投影しながら幸せに浸り続ける――。
重なった唇が離れると、勝旺の顔が間近にあるのを認識する。
ドキドキしながら向き合うこの時間は堪らなく優しくて甘い雰囲気を纏っていた。すると、そこで彼は、想像もつかない最高潮の言葉を口にしたのだ。
「真っ白いドレスの元音ちゃん想像しちまった」
この一言で元音は七日間寝不足になる。
ちなみに、元音の寝不足の原因が自分にあると勝旺が気付くのは、新婚生活で初めて同じ布団で寝る時であることを、現時点では神だけが知っている――。
end
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