第四話『確認』

3/5
前へ
/251ページ
次へ
『君を愛してるよ』  画面から綺麗な声色で放たれる愛の言葉。元音(もとね)は画面上のイケメンと言われる男の子から目を離すと、そのままアプリのタスクを切りスマホを布団の上に投げ出す。 「全然嬉しくない、久土和(くどわ)くんじゃないし当たり前か」  空名(くな)に勧められた乙女ゲームは、暇つぶしとしては楽しめた。だが愛を囁かれるシーンを目の当たりにした今、元音は萌えるどころか残念な気持ちになってしまっている。  きっと久土和を好きになる前だとしても二次元に興味がないという時点でこのような気持ちにはなっていただろうが、元音に運命の王子様が現れた現在はため息が出るくらい彼以外から愛の言葉をもらいたくはなかったのだ。 「久土和くんは愛してるとか言うのかな……うーーーーん、好きだ、とか?」  久土和の告白の言葉を考え始めた元音は一気に高揚感が募り、妄想にふけはじめる。  妄想するのは物心ついた時から元音の得意分野である。  久土和を王子様と認識する前まで、理想の王子様と運命的な出会いを果たす妄想や、お姫様抱っこをされる妄想、更には恋人同士のスキンシップまでをそれはもう何度も繰り返し妄想してきていた。  そしてそんな元音が久土和を好きになってからも妄想を止める事はなく、今回も気が付けば随分長い時間を妄想タイムに費やしてしまっていた。 (わ、もうこんな時間じゃん! 寝ないと!!)  我に返ると隣の部屋から父のいびきが聞こえる事を認知する。時刻は深夜の三時を超え、元音は急いで自身の胸元まで布団をかけて目を閉じる。  しかし興奮している自身の胸の高鳴りを抑える事は簡単には出来ず、静かな夜はそのまま過ぎていった。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加