第一話『王子様』

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 これまでの人生で元音が告白をされた事はないが、好きではなかったのに告白を受けてから異性と付き合い出した友人を何人か知っている。  彼女らは皆幸せそうにしているが、元音(もとね)は付き合ってから好きになるだろうという思考で誰かと恋人関係になりたいとは思わなかった。  恋人は欲しいがそれは元音が心から好きになった者とでなければ全く嬉しくない。  そう、この考えを捨てない限りは元音に恋人ができる可能性はゼロに近いだろう。それもよく、本当によく理解している。 「はあ……」  朝のこの時間、乙女ゲームをする度に憂鬱になる。今プレイしているこのゲームも、元音の理想とは程遠いものしかいなかった。というのも当然の話だ。元音は二次元の異性に全く興味がない。  恋がしたいとぼやいていた元音を見兼ねた友人に勧められてただ始めただけのゲームなのだ。  ここが萌えるとネットで大好評のシーンでさえも、元音の気持ちは一ミリともときめかず、ただ無心で画面上の操作を続ける。 (わたしに王子様なんて一生無理なんだろうな)  幼少の頃からこの不安は変わらない。物心ついた時から元音は王子様の存在を欲していたが、現実を見るようになるまでの時間もそう長くはなかった。  この理想が叶うことはないのだと、幼いながらに察しておりそれは高校生になった今も続いている。結局、どこかで妥協しなくてはいけないのだろうか。しかしそれはあまりにも受け入れる事ができそうにない。  王子様が現れてほしい。この願いだけは、諦めたくないのだ。
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