第四話『確認』

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 結局昨夜は布団に入ってから一時間程時間が経過し、眠りにつくまで時間がかかってしまった。  寝不足である元音(もとね)はしかしやけに冴えた頭で通学中の電車の中でも王子様こと久土和(くどわ)の存在を思い浮かべていた。彼とのここ数日のやり取りを思い出し、嬉しさに浸る。 『平ちゃん』 (ふふ……)  元音は久土和にあだ名で呼ばれ始めた日の事を思い出す。彼が友好的にこちらのあだ名を作って呼んでくれた事が本当に喜ばしい。  一見、あだ名をつけてくれるなんて、脈があるのではないだろうかと思ってしまうところであるが、しかしそれは間違った解釈であるという事は元音自身よく理解していた。 (久土和くんは誰とでも友好的だから色んな子をよくあだ名で呼んでるもんな)  そう、久土和の性格はイカつい見た目とは裏腹にとてもフレンドリーで親しみやすい。そんな彼は、多くの人間に対してそれぞれのあだ名で呼称しているのを知っている。元音も少し会話をしただけでそれを呼んでくれるようになったのだ。  つまり彼は少しの関わりでも男女問わずあだ名で呼ぶ事を頻繁に行うのである。久土和という人間は元からそんな性格なのだ。 (気さくで優しい王子様……へへ、かっこよすぎ)  自分が彼の恋愛対象になっていなかったとしてもそれは問題ない。これからアピールをしていけばいいだけの事だ。そう、今久土和には恋人という存在もいないのだから……。  彼に彼女がいないという事が何故分かるのかと言えば、それは久土和の友人が『久土和も彼女作れ〜』と親しげに彼の肩を叩きながらそう話しているのをつい先日目にしていたからだ。  それを聞く前にも彼に恋人がいないであろう事は九十九%確定的なものとして推測できていた。それがその一言でより確信的な事実となり、元音は安心感を得ていた。  その為今の久土和に恋の風潮は見られない。いや、彼に思い人がいるのか否かは定かではないが、それでも可能性としては元音にもあるはずだ。 (でもなあ……もし久土和くんを狙ってる子がいたら嫌だなあ)
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