第四話『確認』

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 前向きな思考は次第にネガティブなものへと変化し、元音(もとね)は気分が沈んでいった。  自分が嫉妬深いのはそれなりに自覚している。  これまで意中の相手がいなかった元音でも、もし好きな人を狙う輩がいた際にはジェラシーを感じて仕方がないだろうと確信していたのだ。  実際、久土和(くどわ)を想う女の子がいたらと思うと、敵意を抱かずにはいられない。  客観的に冷静に分析をして、久土和は人気者であるものの、異性からモテるというタイプの男の子ではない。  人間性が良く人気者であるが、ルックスが良いわけではなく、見た目が怖くて体付きもゴツいので第一印象は怖い分類に入るのだ。元音も久土和を好きになるまではそんなイメージを抱いた事があった。  そのせいか男女からの人気はあるが、それは恋愛対象として好かれているという人気ではないのである。つまり、良き友人として、盛り上げ役として、クラスメイトとして『人気者』なのだ。  そう考えると元音にライバルはいないように思える。だがしかし、だ。彼はモテるような人物ではなくとも、彼の魅力に惹かれる者も元音のように必ずいる筈だ。そんな事を考えていると元音は焦りが生まれ始めるのである。 (久土和くんに連絡しよ)  思い至った元音は久土和にレインを送っていた。 『久土和くんおはよ! もう学校着いた?』  久土和は大体登校時間ギリギリの数分前にやってくる事が多い。その為彼がまだ到着していないとは思っているのだが、なんとなく聞いてみた。すると直ぐに通知が入り、久土和からの返事が返ってきた事を確認する。 (返事早い……優しい) 『おっす! 電車今乗ったとこだ! ぎり着だな!』  最後にニカリと笑っている絵文字が付いており、彼のフレンドリーな返しに元音の口元は緩む。  いつも通りに接してくれる久土和への想いを改めて実感しながら彼の文面を眺めた。 (『ぎり着』って『ギリ着』に変換しきれてないとこ、可愛い……)  恐らく誤字なのだろう彼の文面が、元音にとっては微笑ましくて仕方がなかった。彼の魅力的な一面を知れた元音は朝から満足な様子で学校へと向かっていった。 第四話『確認』終                 next→第五話
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