第一話『王子様』

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「家に着いてから気付いたんだよな〜やっちまったわ!」 「往復してきたんだ……お疲れ〜」 「おう! ありがとな! まあ運動になったし一石二鳥だな!」  久土和(くどわ)元音(もとね)の労いの言葉にそう声を返しながら窓際にある自席へと足を進めていた。  彼の席は一番端にあり、授業中寝ていても気付かれにくい良い席だ。彼の方へ視線を向ける事はせずに元音は自身の宿題を再開する。 「電車が快速だったから大分早く戻れてラッキーだったよ。地味にデカいよな、快速と普通の差はよ」  久土和はその後もペラペラと言葉を述べてくる。彼がよく喋る男である事は同じクラスの為知っていたが、元音と一対一で話した事はこれまでなかった。  だというのに親しげに話し掛け続けてくる久土和はフレンドリーな人間だとそんな事を思いながら「そうだね」と相槌を返していると、久土和は窓の外に目を向けてから突然こんな言葉を口にしてきた。 「おっ別のとこにも忘れ物してたわ! じゃな!」  そう言って先程よりも倍近い速さで教室を出ていく久土和を、元音は不思議な思いで見送る。 (忘れ物多いんだな)  そんなどうでも良い事を考えながらもすぐに頭を切り替え、宿題の続きに取り掛かった。そして元音が一番苦手な数学の宿題を眉根を下げて見つめている時、それは聞こえてきた。 「ぐあっ」 (!?)
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