第一話『王子様』

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 あまりにも学校に不釣り合いなその声はアニメや映画で聞くような痛めつけられた者の声とよく似ていた。聞こえてきたのは窓の外からだ。  元音(もとね)は驚きながらも席を立ち、窓の下側に目を向ける。するとそこには驚く光景が広がっていた。 (久土和(くどわ)……!?)  なんと窓から見える裏庭には先程忘れ物をしたと言って出て行った久土和の姿があった。  そして彼は地面に膝をついて俯いている男子生徒を庇っているかのように背中を向け、対面する数人の男子生徒に向かい合っている。  状況的に膝をついた男子生徒を久土和が庇い、数人の生徒達に立ち向かっているという図だろうか。  そう思う理由は、地面に膝をついている男子生徒が遠目からでも分かるほど肉体的に傷付いている様子だったからである。  それに久土和と対峙している生徒らは皆、いかにも不良といった雰囲気の者ばかりで元音も普段話しかけたいとは全く思わない見た目をしていたからだ。膝をついた男子生徒がこの不良達にカツアゲでもされたところを久土和が助けたのだろうか。  ここまで考えると先程の学校に不釣り合いな声の正体にも納得がいく。  恐らく久土和が対峙している一人の不良を彼が返り討ちにし、その時に発せられた不良の声なのだろう。久土和に向き合う不良の一人が、頬を抑えながら立ち上がる様子を目にした元音はそう分析をしていた。  彼らはいまだ何かを話しているようだが、どんな会話をしているのかまでは聞こえなかった。  窓を開けて聞き耳を立てたい気持ちはあったが、その音で彼らに気付かれては元音にも危険が及ぶだろう。  そんな事を考えていると一斉に久土和に襲いかかる不良達を彼はいとも簡単に返り討ちにしていた。  一瞬の出来事であり、元音がどうしようと思った時にはもう事は終わりを迎えていたのだ。 (ええ……つよ……)  久土和の柔道としての腕前はそれなりに知っている。彼は校内でも最強の男だと有名だ。  見た目が怖いだけではなく外見通り肉体的に強い男であり、大会でもよく賞を獲得し表彰式で呼ばれているのを何度か見た記憶もあった。
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