第十二話『写真が欲しい』

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第十二話『写真が欲しい』

久土和(くどわ)くんの写真欲しいなあ)  元音(もとね)の待ち受け画面は初期画面のよくわからないアート的な何かだ。  最近、この待ち受けが久土和であればどれだけいい事だろうと何度も考えている。  だが、久土和本人に写真が欲しいのだと直接頼むのは元音の選択肢になかった。恥ずかしいからではない。羞恥心などは久土和を好きになってから元音の枷にはなっていないからだ。  理由はいくつかある。まずは単純に自分の知らない久土和の写真が欲しいからだ。  自分の目で見て自分の手で撮影した彼ではなく、第三者が撮影したまだ見ぬ彼が見たい。  まるで芸能人のプロマイドを購入するかのように、久土和の写真を入手したいのである。我ながら気持ち悪く、こだわりが強いと思ってはいるが、欲しいものは欲しいのだ。  二つ目は写真の腕前に自信がないという理由からだ。下手というわけでもないが、決して上手いとも言えない為、その点においても久土和の写真は第三者に任せたいという気持ちがあったのだ。  三つ目は、久土和と仲の良い男子の二人――岩根と雨宮が写真部であり、二人とも写真の入賞経験があることを元音は知っていたからだ。  特別うまくもない元音が久土和の写真を撮るよりも、元音以上に腕の良い二人に撮影をお願いした方が断然良い写真が撮れるだろう。  そのため既にそんな結論を出していた元音は、自分で撮影する事は一切考えていなかったのである。
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