第一話『王子様』

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 彼の強さをこの目で見た事でそのような事を思い出しながら元音(もとね)は呆然と窓の下を見たまま立っていると、急にスマホの通知が鳴り出しそこでようやく我に返る。  すると窓の下から見える裏庭にはいつの間にか人がいなくなっており、久土和(くどわ)に守られていた男子生徒も消えていた。  元音はあっという間に終わったあの一部始終を忘れられずにいながらも足を動かして自席へと戻り、椅子に腰をかける。 『ガラッ』  とにかく宿題を進めようとシャープペンシルを手に持った時、デジャヴのように教室の扉が開かれそのまま入ってきた久土和と目が合った。 「おっまだいたか! 鉄平(てつひら)、まだ帰らねえのか?」  そう尋ねてくる久土和を見返しながら元音は直ぐに声を口に出した。 「宿題が終わったら。もう少しかな」 「おう、そうか」  宿題に気持ちが切り替わっていた元音は、先程のカツアゲ連中を返り討ちにする久土和の姿はもう既に頭の中から消えていた。  そうして問題の回答をひたすらノートに書き続けていると、ふいに元音の集中力が切れ、とある疑問が頭に浮かぶ。 (久土和、まだいる)  特に支障はないのだが元音の疑問は続く。久土和は何をしている様子もなくただ自席の机に座り、ぼーっとしているからだ。 「久土和帰らないの?」  静かな教室に元音の声が響いた。すると久土和はこちらの方に顔を向けすぐに声を発してくる。 「いんや、少しな」 「?」
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