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きゅんっとこんな状況でもときめいてしまう元音はしかし直ぐに頭を切り替える。久土和はいつもと違う表情で金堂を見下ろしていた。
「金堂、お前今平ちゃんにクソ女って言ったな? 謝れ」
「はあ? クド、何言ってんだよ。こいつがクソなのは事実だろって」
久土和の登場に驚きを見せていた金堂だったが、彼のその一言で眉根を動かし抗議の色を見せ始める。
「女の子にそんな言い方はねえだろ」
「いやクドお前さ、鉄平の事迷惑だって思わねえのかよ? いっつもお前につきまとってさ、正直見てて痛々しいだろ? だから俺はこいつに止めろって言ってるだけなんだって。お前だってこいつが来なくなった方が嬉しいだろ?」
金堂の意地が悪い発言に元音の気分は不快感に侵される。そして、真向かいにいる金堂へ強い憤りを感じ始めた時――――
「思うわけねえだろ」
久土和の迷いのない声が廊下に響いた。
「痛々しいなんて思った事もねえよ。迷惑だなんて思う事もねえよ。俺はな、この子に話しかけてもらえんのがすげえ嬉しいと思ってるからな、お前のその発言は全く理解できねえんだ」
久土和は今まで見た事がない程に怒っている様子だった。
元音も彼のこのような姿を目にした事はなく、久土和の声の質からいつもと異なる様子に呆気に取られていた。常に笑みを絶やさないいつもの彼とはかけ離れ、久土和は金堂に怒気を放っている。
「金堂、お前のやってる事はありがた迷惑だ。俺の気持ちを勝手に代弁すんな。平ちゃんに謝れや」
彼の言動はまるで救世主のヒーローだ。元音は久土和の姿に見惚れながら彼の言葉を噛み締める。
痛々しいとは思わない、迷惑だとも思わない、話しかけてもらえる事が凄く嬉しい、そんな究極に嬉しい言葉を久土和は真剣にはっきり教えてくれたのだ。
(久土和くん、ありがとう)
久土和に追い詰められた金堂は心底バツが悪そうな顔をしながら「おかしいだろ」と口に出し、しかし未だ反省の色は見せなかった。
元音としてはもうこんな奴どうでもいいのだが、久土和は彼に向き合ったまま動こうとしていない。どうしても元音に謝らせようと思ってくれているようだ。それがまた、嬉しく感じられていた。
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