16人が本棚に入れています
本棚に追加
/251ページ
彼が遅刻をすれば遅刻する久土和が愛おしい。そういう事なのだ。
元音はそう思いながら教室の扉を見つめていると、途端に想い人である王子様――久土和が教室へ入ってくる姿を捉える。
「おっす、いやーなんとか間に合ったぜ」
「おせーよクド! ったく、宿題見せてくれんじゃなかったのかよー」
「すまん、宿題忘れててよ」
「マジかよおいー!」
雨宮とそんな会話をする久土和をチラリと見つめているとふと彼と目が合った。これは嬉しい偶然だ。元音は瞬時に背筋を伸ばし、彼に声を発する。
「おはよっ久土和くん!」
「おっす平ちゃん!」
(えへへへ……素敵な朝〜〜〜)
彼の言葉を真っ直ぐに受け止めた元音は幸福感に駆られ、告白つきの返事を返す。
「今日も頑張ろうね、久土和くん好きです」
そう言って彼に朝の告白をすると、久土和は太陽のような笑顔で「おう! 今日もありがとな! 頑張ろうな」と答えてくれるのだ。なんて眩しくて明るい魅力的な王子様なのだろう。
元音は火照ったまま久土和の姿に熱い眼差しを送る。
この視線を嫌だと思わない彼は、なんて優しく寛容的な人なのだろうと何度でも思う。自分でも自覚があるのだ。好きでもない異性からこのような視線を送られる事に嫌悪する者が多くいる事を。
しかし久土和は違う。彼は本当にそれを嫌だと思っていないのだ。建前でも嘘でもなんでもないのは元音が既に本人へ確認済みであり、勘違いからきているものでもない。
この久土和の人柄の良さは、どんな人間にも当てはまるものではないだろう。それが誇らしく、嬉しかった。
(今度、柔道部の見学行ってもいいかな……)
そして元音は唐突にそんな考えを浮かべていた。久土和のまだ知らない所をもっとたくさん知りたい。
彼が格好良い道着を身につけているところは見たことがあったが、久土和が実際に柔道をしている姿をこの目で見れた事は未だになかった。
元音は次の休み時間彼に直接問いかけようと、胸が躍る気持ちで授業を受けるのであった。
最初のコメントを投稿しよう!