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病院
ふわふわした意識の中で、誰かが俺の名前呼ぶのが聞こえる…
この手の感触…
「…とっ、佑人…っ」
「…ん、…ゆづ…き…?」
「佑人…っ、佑人っ!」
目の前には目も鼻も真っ赤で泣きじゃくる雪月。
白い天井に白いカーテン…それと繋がれた点滴…
起き上がろうにも体の感覚がまだ掴めなくて、起き上がることを諦め再びベットに沈むと、雪月が俺の手をぎゅっと握った。
「佑人…っ」
「…っ、もしかして…これって思ってたより酷かった系?」
「ごめん…っ、俺のせいで…」
「ちげぇよ…俺が弱かっただけ…」
「でも俺がっ…」
「いや…お前は悪くない。俺が…お前を守れなかっただけ…」
「だからそれは俺が勝手に…っ」
「違う…っ!俺は…っ、俺は一度…お前に会ってる…」
「えっ…」
「あっ、佑人起きた?…ん?どしたの?二人とも…」
個室の扉が開いてマキと大和が入ってきて、俺らの微妙な雰囲気にいつも明るいマキもふざけることなく大人しく丸椅子に座った。
「会ってる…って…?」
「佑人…もしかして…」
「あぁ…思い出した…」
5年前のあの日、雪月が奴に襲われてる事に気がついた時にはもう手も足も出なかった。
奴の手には一度刺したであろう刃物が握られてて、それは真っ赤に染まり刺された彼は腰を抑えながら蹲って地面には血が沢山流れてた。
恐らく雪月に俺らの記憶はないだろう…
だって駆け寄った時にはもうほとんど意識がなかったのだから。
「あのストーカーは俺らが何とかしなきゃいけなかったんだ…なのに…っ、お前を巻き込んで…っ」
「違うっ…俺も…思い出した。あの時俺…調子乗ってた…喧嘩だって強かったし勝てると思ったんだ…けど…っ」
「思ってたより強かった…だろ?」
「うん…っ、敵わないと思ったら…怖くて…っ、けど逃げられなかった…」
その時の雪月の恐怖を思うといたたまれなくて胸が痛い…
それなのにまた同じ思いをさせてしまった事も、自分の中で許せなくて悔しくてたまらなくて涙が溢れてくる。
言葉にならない俺の代わりに大和が俺の肩に手を置き、話を続けてくれた。
「俺らもあいつがあんな強いと思ってなかったんだ…知ってたら泳がせたりなんてしなかった。リサーチ不足のせいで君を巻き込んでしまった。謝って済む問題ではないけれど、ごめん…佑人はずっと気にしてたんだ…君のこと…」
「俺の事…っ、知ってたの?」
「いや、俺も顔までは覚えてなかったし…お前、面会出来なかったし…でもこの事件の事はずっと忘れられなかった…っ」
「ありがとう…佑人…」
「は?何がだよっ…俺はお前を…っ」
「守ってくれただろ…?今も…あの時も…」
「でも…っ、あの時はもう…」
「俺…思い出したんだ、あの日の事。あいつは俺を刺した後も俺を狙ってた…もうダメだって思った時、誰かが俺を庇ってくれた…あれ佑人だろ?」
「あぁ、あの時俺の静止も振り切って君を守ったのは間違いなく佑人だったよ」
「俺っ…もっと強くなるからっ… ちゃんとお前の事…守りたいっ…」
自分の中ので守るっていう事が中途半端である事の悔しさと、無事でよかったという安堵でボロボロと流れる涙を抑えられない俺は、雪月をちゃんと守るには弱すぎるのかもしれない。
もっと…もっと強くなって雪月の事ちゃんと守りたい!
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