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雪月の不安
あれから佑人は、毎日俺のバイトが終わる時間に合わせて迎えにきてくれる。
二人で歩く帰り道はすげぇ楽しくて、怖いことがあったことなんか忘れちゃうくらい。
だけど時折佑人の鋭い視線が動くと、ぎゅっと佑人の腕を掴んで身構えた。
「大丈夫か?」
「ん…佑人が居てくれれば…」
「雪月さ、こういうの…初めて?」
「え…」
「ストーカーみたいなことされんの」
「あぁ、うん。ストーカーなんてされたことねぇよ…ただ…」
「ただ?」
言うか言うまいか迷った。
怖い思いをした事が多分、ある…
理由は何だったか、どうしてそうなったのか全く覚えてないけど、すごく怖くて生死を彷徨うような怪我を負った事は確かなんだ。
「雪月…?」
「あっ!ごめん…あの、俺さ?こう見えても結構モテたの!高校の時なんてファンクラブとかあったくらい♡」
「へぇ…嘘だろ」
「嘘じゃねぇからっ!これマジだからっ!」
「うん…まぁ普通にかっこいいしな…そんで?」
「えっ…あぁ///」
自分で言っといてかっこいいなんて言われて恥ずかしくなって、こんな話しなければよかったと少し後悔したが、変に勘繰られても嫌なので話を続けた。
「だから、女の子が沢山取り巻きみたいにいた事は…ある」
「ふーん…羨ましい限りだな」
「佑人だってモテただろ?」
「俺?…あぁ、けど家の話すると大概みんな顔色変えて逃げてったな」
「あぁ、そう…なんだ」
タバコを咥えながら顔色ひとつ変えることなく淡々と答えてくれるけど、そこにはやっぱり人知れぬ苦労とかがあったんだろうか。
俺に話せないことがあるように、佑人にもそういうことがあんのかな…
「雪月ってさ、いつから引きこもってたの?」
「あ、えっと…」
「あぁ、話したくなかったら話さなくてもいいけど…」
「いや…二十歳頃、かな…」
「ふーん、そういやお前歳いくつ?」
「あ、俺…今年25」
「えっ?俺も25っ!タメじゃん!」
「え?マジ!?なんか嬉しい…///」
同じくらいなかぁとは思ってたけど、タメって何かさらに親近感が沸く。
「って事は5年近く引きこもってたってこと?」
「えっ…と」
佑人は俺の顔色を伺いながらポンと肩を叩いて、空気を読んでくれたのか急に夕飯の話をし始めた。
佑人に話したくないってわけじゃない…
5年前…俺に何かがあった事は確かなんだけど、俺自身ちゃんと思い出せないんだ。
暫く意識がなかったらしく、無事目覚めたものの記憶が一部曖昧なままで、家族も特にそれに触れることはなかった。
だからそれから3年くらいの間は、自分でもよく分からないまま、家でぼぉっと過ごしていて、殆ど何も覚えてないんだ。
佑人はこんな俺でも好きでいてくれるかな?
変に思われないだろうか…
不安で胸が苦しくなる。
「雪月」
「ん?」
「ゆっくりでいいからな」
「ん…ありがとう」
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