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4
「葵。机の二番目の引き出しを開けてくれないか」
いづるがベット横の引き出しを指さす。僕が引き出しを開けると包装紙にくるまれた小さな箱が入っていた。
「なにこれ?」
「誕生日プレゼント」
「え? うそ! ほんとに?……」
僕は絶句した。いつ買っておいたんだろうか?
「……去年買ってたものなんだ」
「去年って……」
「あー。その、渡し損ねたんだよ」
「……どうして?」
「ん~。まぁ、開けたらわかるよ」
ドキドキして震える手で包装紙をはずすと蓋の上には『葵へ』と走り書きがしてあった。少し右上がりの癖字が懐かしい。蓋をあけると中にペンダントトップが入っていた。そこには小さな野菜のモチーフがひとつついている。
「……き……きゅうり? ぷっ! クククっ」
「ほらな! 笑うと思ったんだ。だからどうしようか迷っているうちに一年過ぎちまったんだよ!」
なんでも野菜にしてしまうところがいづるらしい。クククと笑いが止まらない。
「なんだよー。悪かったな。趣味が悪くてさ」
「いやぁ。いづる君っぽい! 可愛いよ。あれ?この石……」
よく見るときゅうりの先に小さな緑色の石がついていた。
「これってもしかしてペリドット?」
「ああ。葵の誕生石って聞いたんだよ」
僕の誕生日は八月だ。じゃあその前に買ってくれてたというの? 一年後のプレゼントなんて……切なくて胸がいっぱいになる。泣いたらだめだ。何か言わなきゃ。
「ありがとう。気に入ったよ。ねえ、僕ペンダントってつけないから、ピアスに加工してもいい?」
「ピアス? 不良になるのか?」
「もぉ~今どき、ピアスぐらいで不良にならないよ。卒業記念に片耳だけ開けようと思ってさ。そこに嵌めてもいい?」
「ああ。葵の好きに使ってくれ」
「うん。大事にするね。絶対なくさないようにする」
「おう。ありがとな」
「僕のこと気にしてくれてたんだね」
「当たり前じゃないか」
「うん……そうだよね。うん……」
だめだ。もう泣きそうだ。いづるに涙はみせまいとしてたのに。
「葵。陽が落ちて涼しくなってきたから散歩に出ないか?」
いづるが話題を変えてくれた。僕が泣くのをみたくないのだろう。
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