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いづるの大学は農業専攻だ。農家の方たちと混じり自ら畑を耕したりするせいか、いづるは引き締まった身体になっていた。日焼けした肌が男らしい。
それに引き換え僕は色白でひ弱に見える。なんだか情けなくなってくる。
「からかってないよ。なんだか僕を置いていづる君だけ大人になってしまいそうで寂しいんだよ。カッコよくなっていくいづる君を誰かに取られそうで怖いんだ」
「何言ってるんだ。葵の視力は大丈夫か? 俺よりお前の方が都会でモテてるんじゃない? そのうちここに来なくなるんじゃないかって不安になったりするよ」
「そんなことないよ。僕はここがいいんだ。空気も綺麗だし自然が沢山あるし、それにいづる君がいるし。ちゃんと自分のしたいことが見えてるいづる君は素敵だよ」
「俺は自分の気持ちを素直に言える葵が羨ましい。そういうとこ好きだな」
「っ! ……僕もいづる君が好きだよ」
「そ……そうか。なんか、お前に言われると勘違いしそうだな」
「勘違いしてよ。そういう意味なんだよ」
「いや。でも……俺とお前はおしべだから。その……受粉にはおしべとめしべが必要でな」
「いづる君。なんでも植物に例えないでよ!」
「じゃぁ。俺は雄であって。葵も雄だから。雌がいて交尾がなりたつのであって……」
「キリンや狼やペンギンだって同性で交尾しあうのがいるじゃん」
「葵は恋に恋してるんだよ。俺みたいに農業バカで取り柄がない人間を好きになる理由がないじゃないか」
「ねえ。人を好きになるのに理由なんていらないでしょ?」
「っ!……ああ……そういえばそうだな。今すとんと落ちたよ。葵、お前は天才だな」
「ん~。何に落ちたかはわからないけど、いづる君が普通の人と感覚が少しズレてるというのはわかった。いや、わかっていたけどさ。これほどまでとは」
「はは。ひどい言い方だなあ。でも今ので俺も分かった。俺は植物以外で興味があるのは葵だけなんだ。綺麗で可愛くてほっておけないんだ」
「ええっと。それは僕達両想いってことなのかな?」
「お……おう。そうなるのかな」
なんだよそれと、僕達は笑いながらベットの上を転げまわった。
僕は早く大人になりたかった。父や母は僕を進学塾に入れたがったが、そんなとこに入ると夏季休暇が取れないじゃないか。僕の人生は僕のモノだ。その代わりに家に居るときはひたすら勉強を頑張った。いづると同じ道に進むと決めたからだ。
もちろんいづるが好きだからだけじゃない。農業の楽しさ、収穫する醍醐味、何より自分が生産したものを手に取ってもらえる喜びを感じることが出来たからだ。
人々が安心して安全な食物を作ることをいづるは誇りにしていた。
僕も胸をはって生産者だって言える作物を作っていきたい。
必然的に進路は決まった。そしてあっという間に大学受験の日が迫っていた。
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