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乗り合いバスを降り、ひまわり畑に沿って一本道を行けば大きな昔ながらの一軒家が出てくる。少し離れた場所にぽつりぽつりと同じような一軒家が連なっている。
ここは山間に作られた集落だった。
「お祖母ちゃん、ただいま」
「おお。来たんか。葵も一人で電車に乗れるようになったんやな」
「やめてよ。僕はもう高校生だよ」
「あら。葵ちゃん、ちょいと見ないうちに大きくなったわね」
「叔母さんまで、もう僕は子供じゃないよ」
僕は遠野葵。高校三年生だ。今日は田舎の初盆に参りに来た。
ここは僕の父さんの実家だ。叔母さんは父の妹。東京に行った父の代わりに叔父さんと結婚しこの家を継いだようだった。そこのところの詳細は知らない。聞かないほうがいいみたいだから聞かないでおくつもり。
父は田舎暮らしが嫌で都会に行ったらしい。でも僕は小さい頃から身体が弱く大気汚染の多い都会の空気に合わなかったようだ。最初は里帰りにと連れてこられたのだが、思う他ここの自然と空気は僕の身体にあった。山と緑に囲まれると不思議と身体に力が湧いてくるようだった。
叔母さんには年の離れた息子が二人いた。長男は早くに独立し都会暮らし。残った次男は僕より二歳年上で名前はいづると言った。僕らは従妹同士であり親友であり同士であった。
いづるは真面目で何かに集中すると、とことん突き詰める学者肌だ。だけどその反面、かなり抜けてる部分も多くて人間味あふれる性格だった。
歳が近く話もあったせいか、僕といづるはいつも一緒だった。いづるといると楽しくて時間を忘れてしまうんだ。毎年僕は夏休みがくるのを心待ちにしていた。
そう、僕の初恋はいづるだ。この想いは口には出さないでおこうと思っていた。だけどいづるが大学に進んだ時、急に不安になったんだ。凄く大人びたと感じたから。学生服を脱いでワイシャツに腕を通すいづるを見て心臓が高まった。
「……カッコいい」
「ん? ああ。このシャツ、ブランドものらしいんだ」
「いや、シャツじゃないよ。いづる君がカッコいいなって思ったんだよ」
「なっ? ば……ばか。からかうなよ」
真っ赤になったいづるは可愛かった。
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