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化け文字
文字が化けた。
というか、化けた文字に襲われた。
スマホで「ちょ」と打ちかけると予測変換の一番目の候補が……。
『チョベリバ』
そんな馬鹿な。
今までメールに書いたことなど一度もない。
口に出したことだっておそらく皆無だ。
どこに使うんだよ、こんな死語!
外出先からスマホで得意先に急ぎのメールを書く。
「ちょうど在庫を切らしてしまい」と入力するつもりだった。
それが「チョベリバ在庫を切らしてしまい」と送りそうになる。
危ない。やばいな、まずいぞ。
高校時代のコワイ先輩からの飲みの誘いに返事する。
「誘っていただき超うれしいっス」が……。
「誘っていただきチョベリバうれしいっス」に!
おいおい、うっかりじゃ済まないぞ。
死語が化けたのか? 死語の亡霊?
この現象はいったい何?
きっとこのスマホが売り出された当時はホットなワードだったのだろう。
いやいや! 中古だが、そんな古いモデルじゃない。令和製だ。
調べてみると『チョベリバ』が流行したのは1996年。
日本で最初にスマホが売られたのは12年後の2008年。
なのに令和のスマホにも『チョベリバ』が予測変換に入っている……。
すでに死語になった後で?
多分、この中古スマホの前の持ち主が……。
ごく最近までその死語のヘビーユーザーだったってこと?
チョベリバ世代の元ギャルだったってこと?
だったら今は立派な大人のアラフォーだろう。
予測変換の筆頭に『チョベリバ』が来るほどサイテーな毎日だったのか?
チョーベリーバッドな人生を送っていたのか?
もしかして、化けて出ているのは文字じゃなくて前の持ち主?
このスマホ、呪われてる!?
世界で一つの『チョベリバ』スマホを手放したい!
と、思ったら次の日から予測変換の一番目が『チョベリグ』に変わった。
すると、得意先からまとまった発注メールが入った。
「ちょうど入荷したところで」と急いで受注OKの返信を送ろうとする。
が、「チョベリグ入荷……」と打ちそうになる。
高校時代の片想いの相手が近所に引越してきたという知らせが入った。
「ちょっと雰囲気のいいバーがあるんだけど」とLINEを返そうとする。
が、「チョベリグ雰囲気の……」と変換しそうになる。
でも、そんなことはどっちだっていい。運気は急上昇だ!
『チョベリバ』スマホが『チョベリグ』スマホに化けた。
そして、人生が好転した。
もうしばらく様子を見てみよう。
おそらく人生には波がある。
チョベリバとチョベリグ。
繰り返すのは不思議じゃない。
自然なことだ。
それでも、『チョベリグ』は気分がいい。
(了)
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