海に消える道

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そう、今この瞬間も。 私たちふたりは肩を並べ、海を渡る夕日を眺めている。 地元でも有名な海岸だ。 本土の海岸から対岸の小島へ向けて、まっすぐ海を走る道がある。 本土と小島を結ぶその道は、特別な道だ。 いつでも、はいどうぞ、とひらかれているわけではない。 干潮のときにだけ姿を現す。向こう岸へ歩いて渡ることができる。   潮が満ちれば、道は波に呑まれて消える。 自宅から歩いて40分のこの海岸を訪れたのは、この子がどんな顔で特別な海を眺めるのか、興味があったからだ。 「渉が5歳の頃だ。一度、連れて来てやったことがあるんだが覚えてないか」 私の問いに考える素振りを見せた孫は、ややあって首を横に振った。   「そのときは、お前のお父さんもお母さんも一緒だったんだが……なあ渉、そろそろ両親に会いたいんじゃないか?」 「今はいい。向こうにとっては、俺がいないほうがいいんだろうし」 鋭い視線を向けられ、私は苦笑する。 思ったより根が深い。 どう話を続けたものか考えあぐねていると、渉の指先がすっと海へ向かった。 「ねえ、じいちゃん。あれってさ。潮の満ち引きで道が現れたり、消えたりするんだよね。看板にトンボロ現象って書いてあった」   「よく見ていたね。そう、どこかの国の言葉らしい。私はあんまり好かないけどね。響きがどうも風情がない」   「じゃあさ、虫の蜻蛉(とんぼ)に、道路の()と書いてみたら? 蜻蛉(かげろう)の道」   「ほう」 「もっといいのも思いついたよ。おぼろ道」   私は感心した。 今まさに()き出しの道は、ぼんやりと不確かでおぼろげだ。
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