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渋谷優子の博打
競馬場で待ち合わせなんて、あいつも私の好みがわかってきたじゃないか。競馬にはどれだけの金を注ぎ込んだかわからないけど、面白くて堪らない。
私が競馬場で待っていると彼女がやってきた。彼女の容姿を見て思った。少し痩せたか、疲労の色が濃い。大きな鞄が目立っていた。
「お待たせ、渋谷先生」
「先生はここでは言わなくていいよ。話があるってどうしたんだい?」
鞄の中から分厚い資料を取り出して私に差し出した。二百ページはある資料を彼女が読むことを促すので仕方なく読み進めた。
しばらくして彼女の疲労の原因がこの資料のためだとわかった。一点のミスもなくこれだけの物を完成させたのだと唸った。
「よくできてるね。これは疲れただろう」
「疲れ果てました」
「それで私に何の用事なの?」
彼女が二歩下がって深く頭を下げた。
「参加依頼です」
「私もゲームに出るの?」
「お願いします」
「確かに面白そうだけど、かなり大変だよね」
「先生が競馬で散財していることを旦那さんに教えちゃおうかな」
「おいおい、それはやめてくれ。わかったよ。やるよ」
「ありがとうございます。優しい先生で良かった!」
「全く、調子いいんだから」
彼女と別れてから資料を読み込んだ。やるべきことは天音という女性の生死を見定めることだった。
私は部屋のロックが解除されるとホールに降りて天音の脈を診た。
『渋谷様、天音様は生きていますか? まだ生きている場合、天音様は他の参加者によって確実に殺されます。しかし渋谷様が嘘をつくと命令に違反したこととなり渋谷様を失格に致します。では、監視カメラに向かってどうぞ』
私は監視カメラに向かってゆっくりと声を出した。
「天音玲子はまだ生きています」
『正直にお答え頂いてありがとうございます。ギャンブルでの借金を返すために優勝賞金が必要なのですね。実は胸についているプレートには心拍数を測定する装置が内蔵されていて、天音様が生きていることはわかっておりました。騙し合いゲームなので試させて頂きました。霧里様は殺した振りをすることで二つの罪から解放される道を選んだのですね。ですが命令に違反したことで霧里様は失格になりました』
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