哀れな男~歌舞伎町NO1

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立ち止まって廊下の壁や天井も、隅々まで目を凝らして見る。 きっと俺の目は今、血走って怒りに吊り上がっているだろう。 リビングのドアは開いていた。 俺は基本、リビングのドアはいつも開けっ放しだった。 30畳程の広いリビングは俺の自慢だ。 ピカピカのフローリングの床に質のいいラグが敷かれ、家具はモノトーン。大理石のテーブルに、黒い本革のソファー。天井の照明も間接照明も、全てがモダンで洒落た設えになってる。 しかしこの自慢のリビングも、犯人を探すとなったら逆に厄介だ。 広過ぎる。そして相手は小さ過ぎる。 俺は広いリビングを、端から端まで目を凝らして、懸命に探した。 テーブルの下、ソファー、食器棚や冷蔵庫、カーテンの裏に観葉植物の葉の陰まで、寝室同様に隈なく探した。 だが、どこにも奴の姿は見当たらない。 一体どこに隠れてやがるんだ。 いない訳は無い。必ずどこかに身を潜めている筈だ。 俺は一旦探し回るのをやめ、仁王立ちになって静かに耳を澄ませた。 何も聞こえない。 こうなったら、俺と奴の根比べだ。 俺が気配を消していれば、奴はそのうち、必ず動き出す筈だ。 そうして俺は、怒りで荒くなった呼吸をなんとか鎮めて、じっと、息を殺すようにして、まるで修行僧のように自分を無にした。
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