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どうしてここまで彼女に対する拒否感が酷いのか、自分でもわからない。
わからないが、これ以上拒否する理由もなければ、元々糾弾する必要もなかったはずなのに。
「では失礼しますね。まじないを唱え、傷を塞ぎます。痛みはございません。その後傷薬を塗って、包帯を巻きます。傷薬も魔女に伝わる製法で作っておりますが、よろしいですか?」
「…ああ」
リリアナはほっとした表情を浮かべ、治療を開始した。
「雪下の蒲公英、柘榴の果実。何度も痛かったわね…早く治ってね…」
後半の方は怪我をした子供を労わるような言葉だった。
レナートにというより、傷そのものを擬人化して話しかけているような言い回しに、なぜか心が少しあったかくなるような気がした。
彼女の優しさが、背中から染み入ってくる…それが心地良く、そして怖かった。
どうして俺なんかに。
リリアナはただまっすぐに優しいだけで、裏も表もない。
レナートは王宮でも戦場でも常に裏と表を読んで動いている。
表裏、損得、有益無益…そういう駆け引きのない相手や状況などないのだ。
彼女がかつて仕えていた主、ルチアもまさにそんな人物だったはずだ。
彼女はあまりにも清らかな心で、直視するには眩しい。
「痛みはまだ残ると思いますが…もう無茶な動きはしないでくださいね」
あれこれ思案していたらいつの間にか包帯も巻かれていた。
肩の痛みが増しているのは、他でもない自分のせいなのは理解している。
「わかった…礼を言う」
小声で言っただけなのに、彼女は嬉しそうに笑った。
武器だと言ったあの笑顔。
俺の方がよっぽど小心者で狭量ではないか。
追放の際、俺なら助けてやれたのに?何様なんだ俺は。
森で生き抜ける娘相手に、何をおこがましい。
何か彼女に対するわだかまりが解けそうな気がした時、目の前に水の入った木製のカップが差し出された。
そうだ、喉が渇いていたのだ。
ついでに言うと腹も減っているが。
「今お食事を用意しますね。あまりいいものはないですが」
少ししてリリアナはパン粥を用意した。
ミルクで煮込む代わりに、野菜くずが煮込まれたスープで作ったパン粥。
レナートの隣に座り、スプーンでひとすくいずつ食べさせてくれる。
あっという間に完食してしまい、最後に口の端についたスープを指でぬぐってくれた。
レナートに食欲があり彼女は喜んだ。その方が治りが早くなると。
どうしてそう、いちいちまっすぐなのだ。
なぜ君の境遇でそんなまっすぐでいられたのだ。
片付けをするリリアナの背中を眺めるうちに、レナートはまた眠りに落ちていった
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