辿れない足跡

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「まだあいてないね」  オートバイから降りて、日菜美はヘルメットをとる。 「こういう店によく出入りする母親だったのか?」 「よくわからない……」 「そうか……」  開店時間は土曜日でも十七時からである。まだのれんは出されていない。開店している時間帯だとしても、この店では日菜美一人では入りにくいだろうから、母親さがしを大人に頼るのは正解といえる。 「おれが行く」  先野は引き戸に指をかけた。からから、と音がして開いた。 「ごめんください」  カウンターの内側で料理の仕込みをしている中年男性が一人いた。店のオーナー店主だろう。見事に禿げた頭が光っていた。 「すまないけど、まだ開店前なんだよぉ」  先野をチラリと見て、また仕込み作業に戻る。 「いえ、客じゃないんです。ちょっと聞きたいことがありまして……」  道でも尋ねているのかと思ったようで、店主は、 「はい? なんだい?」  と、顔を上げた。 「元瀬璃乃さんという女性(ひと)をさがしてます。この店によく来ているらしいんですが……」
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