辿れない足跡

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「どんな人だい?」 「年齢(とし)は三十六歳、運動が得意で、メスの犬を飼っています。写真はないですが、たぶんこの子に似ている」  先野は背後に立っている日菜美の肩を押す。 「うーん……ああ、思い出したよ。元瀬さんね……、そう、そんな名前だった!」 「どちらに住んでいるか、ご存知ですか?」 「百岩(ひゃくいわ)が最寄り駅だって聞いたね……」 「百岩駅……」  日菜美がすぐにスマホで検索。 「あと、この近くの会社の営業所で働いてるって。犬は……そう、マリーって名前だったね!」  間違いない。 「会社名はわかりますか?」 「いや、さすがにそこまでは……。大手の有名会社じゃないんだと思うよ。言わなかったから」 「百岩駅はここよ」  日菜美が見せるスマホの画面には地図が表示されている。それによると――。 「関差(せきさ)市……」  調べれば調べるほど、遠くなっていくようだった。
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