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真実に近づくのは……
浮気調査の報告書を仕上げ、午後から、別の探偵案件のサブとして手伝っていた調査を終えて、今日はもう夕方だし、これから事務所に戻るより直帰しよう――と思って駅に向かって歩いているところだった。
三条愛美は、思いがけない光景を目にして足を止めた。
JR顔床駅前にいたのは、誰あろう、先野光介である。停止させたオートバイにまたがりヘルメットをかぶってはいたが、あの猫背気味の背格好と流行遅れのスーツは、まぎれもなかった。
そしてその横に立っているのは、昨日先野に近づいてくるなり、「パパ」と呼んだ高校生だ。
二人はなにやら言葉を交わしているが、この距離からでは雑踏に紛れているせいで聞き取れない。この状況から想像するに、どうやら今日一日かけて、あの娘につきあって母親の捜索をしたのだろう。だが成果はなかった、といったところ……ではなかろうか。
先野は、じゃあ、と軽く手をあげると、オートバイを発進させて去っていった。
女の子のほうは、これから電車に乗るのかと思いきや、きびすを返して駅を背に歩き始める。
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