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「…………」
先野は三日間、有給休暇を申請していた。ということは、明日も捜索に付き合うつもりなのだろう。
三条は一瞬迷った。が、気がつくと、女の子――日菜美を尾行していた。
夕方で、深まりゆく秋の太陽は低い位置から町を紅く照らしていた。人も建物も東に長い影を落として、もう間もなく夜になる。
日菜美は、尾行されていることなど気づきもせず颯爽と歩いていた。途中、どこかへ立ち寄ることなく着いたのはハイツだった。四戸が入る集合住宅だ。
一階の部屋へと入っていった。閉じたドアの向こうから、ただいま、と声がする。
三条はドアへ近づく。ドア横の小さな表札に「元瀬」とあった。
この部屋に、日菜美は、実の父親と二人で暮らしているのか……。先野がいうところの、ろくでもない父親が。ともあれ、日菜美が未来から来たわけではないのは確かめられた。むろん、そんなSFみたいなことが現実にあるはずがないとはわかっていたが……。
三条は足早にその場を去った。寄り道をしたが、今日の仕事は終了だ。
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