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渦長市から始まって、南銀市、皿松市、雲押市……と東側を回ってきた。明日は西側を中心に聞き込みをする予定だった。だが、
(有用な情報は手に入らないかもしれない……)
先野はカウンターの奥から灰皿を引き寄せると、スーツの内側から取り出した煙草をくわえる。
「どうぞ……」
バーテンがライターで火をつけてくれた。
先野は無言で会釈する。息を吸って味わうと、煙草の先端の火が明るくなる。ふう……と紫煙を吐いた。
明日の聞き込みでも、偽の情報をつかまされる可能性は高いだろうとみた。しかし……と先野は、母親がいくつもの居場所を設定する理由に見当がつかない。撹乱するためにしては手が込みすぎている。そこまでする必要があるだろうか。なにかべつの意味があるような気もする……。といって、いまのところピンとくるものはないのだが。
聞き込みを続けて、なにか手がかりをつかむ以外にない。そのうち糸口がつかめればいいが……。
グラスに残っていたウィスキーを飲み干した。
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