真実に近づくのは……

5/12
前へ
/58ページ
次へ
 渦長市から始まって、南銀市、皿松市、雲押市……と東側を回ってきた。明日は西側を中心に聞き込みをする予定だった。だが、 (有用な情報は手に入らないかもしれない……)  先野はカウンターの奥から灰皿を引き寄せると、スーツの内側から取り出した煙草をくわえる。 「どうぞ……」  バーテンがライターで火をつけてくれた。  先野は無言で会釈する。息を吸って味わうと、煙草の先端の火が明るくなる。ふう……と紫煙を吐いた。  明日の聞き込みでも、偽の情報をつかまされる可能性は高いだろうとみた。しかし……と先野は、母親がいくつもの居場所を設定する理由に見当がつかない。撹乱するためにしては手が込みすぎている。そこまでする必要があるだろうか。なにかべつの意味があるような気もする……。といって、いまのところピンとくるものはないのだが。  聞き込みを続けて、なにか手がかりをつかむ以外にない。そのうち糸口がつかめればいいが……。  グラスに残っていたウィスキーを飲み干した。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加