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「マスター、勘定を頼む」
カネにもならない仕事に休暇を使うのはバカげているとは思わない。逆にそういうのが本物の探偵なのだと、そんな境遇にある自分に心が踊る。
「毎度、ありがとうございます」
「それから――」
先野はオートバイのキーをカウンターに置いた。観光地のメダルキーホルダーがついていた。
「表に停めてあるおれのCB、今夜、預かってもらえるかい? 明日の朝、取りに来る」
☆
朝十時……。
クルマのなかで見張ること一時間、ようやっと家から出てきた。
三条愛美は、昨夜確かめた日菜美の家を張り込んでいた。
先野が三日間の有給休暇を申請していて、二日目の今朝になっても取り下げられていないことから、今日もいっしょに母親さがしに付き合うつもりだろうと予測した。もし昨日のうちに母親が見つかっていたら、そのまま予定のない休暇をすごすような先野ではなかった。そんな男ではない。そして、どうやらその予想は的中したようである。
三条は日菜美が外出したのを確認した。もし予想と違って日菜美の外出目的が友人と遊ぶことだったとしても問題はなかった。要は日菜美が留守であればいいのだった。
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