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家の玄関が見える路上に停めた社用車から、去っていく日菜美の後ろ姿を見やり、それから後部座席のコンテナケースからマグネット式のデカールを取り出すと、クルマを降りて側面に貼り付けた。電気工事会社の名前が入っているそれは、興信所がカムフラージュ用に作ったものである。もちろん現存しない会社だ。
三条はハイツに向かった。
日曜日。おそらく今日はそこに日菜美の父親が一人でいるはずだった……。
担当案件の仕事では、もちろん、ない。
本来なら通常の勤務時間帯であるわけだから担当案件を解決すべく働いているはずであり、それ以外のことにかまけている場合ではなかった。実際三条は、二件の身辺調査依頼を受けていた。が、昨日の段階で一件は目処がついており、もう一件もここが終わり次第取りかかるつもりで、仕事が期間内に未達成になる可能性はないだろうと判断したのだった。
ドアチャイムを鳴らした。内側から「はーい」という声がして、ドアが開いた。
スーツを着た若い女が立っているのを見て、ドアを開けた中年男性は予期しない訪問者に、なんの用なのだろうと思っているのが、その顔から感じられた。
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