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だが残念ながら、メイジーの不安、言い換えれば危険に対する感覚は国を飛び出した日から比べれば随分と薄れていた。だって、こんな残暑の引かない日々だ。白い太陽に毎日焼かれて、夜にも気温が下がらずに寝苦しい日が数日続いた。そのせいで、彼女の疲労は抜けていない。
ルストレであればエアコンの完備された家に住めるが、ここはエアコンがある方が珍しいのだ。そして、不運な事に語学学校のエアコンも壊れてしまった。だから、こんな判断をしてしまうのも当然なのかもしれない。もう、どうにでもなれ、と。
『何時くらい?』
送信ボタンを押した瞬間に僅かに残った不安の炎が心臓の底を焼いたが、既読マークがつくと彼女はどこか嬉しくなった。
『十九時には待ち合わせられるよ』
語学学校のクラスメイトは皆ティーンエイジャーで、彼女とは話が合わない。七月頃に来ていれば、バカンスがてらやってくる同い年くらいの人間と友達になれただろう。
年が離れていても、友達にはなれるかもしれない、と思ったが現実は上手くいかない。若い子達も遠慮しているのか彼女に話しかけて来ないのだ。メイジーも社交的ではないから、話しかけない。とは言っても異国での暮らしにくさや、起きた出来事を共有出来ないのは中々苦しい。わからない事もあるし、と彼女はヴァルターの誘いに乗るのは悪い事ではないと証明すべく、正当な理由を探し続けた。
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