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どうして…
俺は彼女の手を掴んで、
カメラも人目もない物陰に引き込んだ。
感情はあらぶっているのに、
頭の芯ではどこか冷静になっている。
おびえたような彼女の目。
うるんだ瞳が一瞬俺を見つめた。
俺も一瞬彼女を見つめた後、
何も言わずに彼女の唇に自分のを押し付けた。
自分でも引くぐらい乱暴に、
半ば無理やり唇を開かせて割り入った。
でも彼女は抵抗していないように思えた。
ふっ…。
こんな時まで自分に都合よく考える。
変に冷静な自分に笑ってしまう。
何も考えたくなくて、
ただがむしゃらに彼女の唇をむさぼった。
こんなの間違ってる。
聞きたいこともたくさんあるし、
踏まなきゃいけない段階だって、
どんなにたくさんあるだろう。
彼とはどうなってるの?
あの派遣社員と何話してたんだ?
俺のことどう思ってるの?
聞きたいことが頭の中を、
ぐるぐる回っている。
でも,ただただ夢中で彼女にキスをする。
彼女の髪やほほや肩に触れて、
その感触や存在を確かめながら。
「…はぁ…んん…」
彼女から時折漏れる吐息。
なんでそんな表情するの?
俺のこと拒否しないのはなんで?
苦しいのも拒否できないのもわかってる。
でも自分を正当化しようとする俺自身が、
彼女のすべてを都合よくとらえようとする。
「ま、真島さん…」
…っ!
唇が離れた瞬間、
彼女から漏れた俺の名前と、
その表情に我に返った。
「…あ、っと…あの」
困ったように俺を見つめる彼女を前に、
かける言葉も思いつかなくて、
「あ、…俺行くわ…」
そう言って—、逃げた。
「あっ!真島さん!」
背中に彼女の声が追いかけてきたが、
振り向かないでそのままデスクに戻った。
あぁぁぁぁぁぁっ!
やっちまった。
どうして?
どうしてこうなった?
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